中津市出身で研究者の友松夕香さんが一般財団法人国際開発機構(FASiD)が主催する第23回国際開発研究大来賞(おおきたしょう)を受賞。今月24日にFASiD事務所にて表彰式が催された。
大来賞とは、国際開発の分野の様々な課題に関して優れた指針を示す研究図書に与えられる賞のこと。
今回友松さんが受賞した作品は「サバンナのジェンダー:西アフリカの農村経済の民族誌」。ジェンダーとは性別のこと。しかし、生まれ持った生物学的な性差ではなく、社会で身につけた男、女としての性別規範であり、役割を意味している。この本には友松さんが数年に渡って西アフリカ現地でのフィールドワークにおいて調査した結果が詰め込まれており、学術書でありながらサクサク読める軽快さも大きく評価されている。
今回は友松さんに色々話を聞いてみた。
友松夕香さんプロフィール
友松 夕香(ともまつ ゆか)
大分県中津市出身。2001年にカリフォルニア大学バークレー校政治学部を卒業後、ブルキナファソで青年海外協力隊として活動。2015年に東京大学で博士号(農学)を取得。東京大学東洋文化研究所(日本学術振興会特別研究員RPD)、プリンストン大学歴史学部(ポスドクフェロー)を経て、現在は京都大学人文科学研究所(日本学術振興会特別研究員PD)に所属。
今回受賞した著書以外にも、「執拗な共食」『再分配のエスノグラフィ』(浜田明範編、悠書館、2019年)、“Parkia biglobosa -Dominated Cultural Landscape: An Ethnohistory of the Dagomba Political Institution in Farmed Parkland of Northern Ghana.” Journal of Ethnobiology 34.2 (2014)、「研究は実践に役立つか?」『フィールドワークからの国際協力』(荒木徹也・井上真編、昭和堂、2009 年)などがある。
また、「人びとの過去に接近する」『歴史書の愉悦』(藤原辰史編、ナカニシヤ出版、2019年)にて分担執筆をしている。
サバンナのジェンダーという本
ライター(以下:ラ)
「この度は受賞おめでとうございます。こちらの本は専門書になると思うのですが、くだいて言えばどのような本なのでしょうか。」
友松さん(以下:友)
「この本は、ガーナ北部の農村部を舞台に、男性と女性が織りなす日常の暮らしとその移り変わりを描いたものです。」
ラ: 「それでタイトルにジェンダーという言葉が使われているんですね。性別にフォーカスしているということは、生活と変化以外にももっと深い意味があるのでしょうか。」
友: 「そうですね。この本は国際開発の政策をもう一度考え直すことが目的なんです。女性の利益や幸福のためとして、経済的自立を支援する政策には大きな誤認があること、またそうした支援がかえって女性の負担を大きくしてきた矛盾を明らかにしました。」
研究のきっかけ
ラ: 「どうしてこの研究をしようと思ったのか教えてください。」
友: 「私は、もともと、青年海外協力隊に参加して、ガーナの隣国のブルキナファソに赴任しました。そこで、二年間協力隊員として過ごしたとき、国際協力の現場の色々な矛盾を見てきました。」
ラ: 「矛盾…?」
友: 「たとえば、解決すべき問題が現場の実態とは「ずれ」ていたり、支援が想定外の新たな問題を引き起こすなどです。私の調査地だけではなく、多くのアフリカの地域では、農業の低迷や人口増加、都市部と農村部の経済格差の広がりなど多くの問題を抱えています。その解決が急がれる一方、現場を見てきた者として、問題を単純化して語りがちな政策を問いなおす必要があると感じました。」
研究者への道
ラ: 「読者の、特に将来を考えている若者の中には友松さんのような研究者を目指したい、という方もいると思うのですが、どうすればこういった研究者になれますか。フィールドワークへはどうやって参加するんですか。」
友: 「私は、青年海外協力隊への参加がきっかけで、国際協力・開発の研究を始めました。協力隊の赴任地だったブルキナファソから帰国後、大学院に入ったのです。国際協力や開発について学べる大学院はたくさんありますが、私が選んだのは理論より、現地の暮らしを理解するためのフィールドワークを重視する研究室でした。ただ、私の先生はインドネシア研究者だったので、調査地(フィールド)は私自身で探しました。偶然と出合いで調査地が決まり、現地ではたくさんの方々にお世話になることで調査ができました。」
アメリカ留学のきっかけ
ラ: 「友松さんの経歴でアメリカの大学の政治学部を卒業されていますが、アメリカへはどうやって留学したのでしょうか。」
友: 「高校のときの英語塾の先生がアメリカの大学を卒業していて、先生の母校へ推薦入学させてもらえたのです。ただ、入学後、別の大学に行きたいと思って、最終的にカリフォルニア大学バークレー校に編入しました。当時はインターネットが普及し始めたときだったのですが、好きな大学を自分で見つけたいと思って、いろいろな大学の情報を自分で探しました。編入には、エッセイ(日本でいう小論文)や大学の先生の推薦書が必要で、英語がままならないなかでも、熱意を言葉にして一生懸命伝えていたのだと、今となっては思います。」
日本での学生時代
ラ: 「今までのお話を聞いていると、友松さんは学生時代、すごく勉強されたんだな、と感じたのですが、学生時代(高校)など、どんな勉強の仕方をしてましたか。」
友: 「私は、好きな科目(英語や社会、歴史、生物)をとことん勉強するタイプでした。対して、あまり興味をもてない科目というのがあって・・・・。かなり早いうちから、数学や物理、化学には自分の中で一定の見切りをつけて、志望校に受かる最低ラインだけは超えるようにする作戦をとっていました(笑)。」
アフリカでの生活
ラ: 「では、アフリカでの生活で驚いたこと、日本と違うな、と感じたところを教えて下さい。」
友: 「たとえば、一夫多妻の家族の暮らしです。22カ月の調査の間、3人の妻をもつ方のご自宅に住ませてもらいました。」
ラ: 「日本では考えられないですよね。カルチャーショックです。」
友: 「総勢30人以上の大家族の暮らしは、たくさんのルールがあって、協力と葛藤で成り立っていました。最初はわからないことや疑問に思うことが多かったです。しかし、しばらく生活すると納得のいくことばかりで、人は日本もアフリカも変わらないと思いました。」
受賞の感想
ラ: 「受賞の感想をお願いします。」
友: 「国際開発の分野の著名な先生方が受賞してきた賞で、身が引き締まる思いでした。これから、研究をもっと頑張りたいと思いました。」
メッセージ
ラ: 「最後にNOASエリアの若き未来の研究者にアドバイスとメッセージをお願いします。」
友: 「研究者というと、遠い存在のように思えるかもしれないのですが、身近にいますよ。たとえば、料理好きの人、農家さんもそうですね。どうやって、より美味しい料理をつくるか、より美味しい野菜をつくるか、日々研究じゃないですか?美味しいものをつくるための本(理論)は、役立たないときが多くて、自分で探すしかない。つまり、研究というのは、「興味がある」物事をとことん突き詰めて探求していくことなんです。
学術的な研究の場合は、その成果が問われるので苦しいことも多いです。しかし、好きな研究をすることそのものは、まったく苦ではなく、これで食べていけるのなら、それだけで幸せです。
まず、自分は何に興味があるのか、いろいろなことを試しながら探すことが研究者への第一歩だと思います。でも、私なんて、30歳近くになって研究が面白いとわかるまで、まさか自分が研究者タイプなんて気付きもしませんでした。いつになっても、研究を始めるのに遅すぎることはないということですね。」
友松さん、貴重なお話をありがとうございました。今回受賞された友松さんの本、「サバンナのジェンダー:西アフリカの農村経済の民族誌」。気になった方は手に取ってみてはいかがでしょうか。
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Yosaroh
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