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巨象の生みの親

公開日:2019年09月05日 (更新日:2024年04月18日)

ライター:ジモッシュ編集部

大分県宇佐市のサファリパーク「九州自然動物公園アフリカンサファリ」。入口で来場者を迎える巨大なゾウは、同園のシンボルとして長年にわたって親しまれてきました。実はこのゾウ、外注ではなくアフリカンサファリの職員がつくったそうです。しかもその職員は69歳にして今も現役。
これほど大きなゾウをなぜサファリパークでつくったのか?その職員は普段どんな仕事をしているのか?次々に湧き上がる疑問を携え、取材に向かいました

巨大なゾウを見に行こう

巨大なゾウは国道500号線の急な坂を登り切ったところで姿を現します。高さ6m・全長12m、モチーフとなったアフリカゾウの2倍の大きさです。
車道から少し離れているので、車を降りて近寄ったほうが大きさを体感できるかもしれません。試しに筆者が手を伸ばしてジャンプしても、鼻先にすら届きません。よく見ると、表皮のしわや優しげな瞳など、細部まで作り込まれていることがわかります。
「当時の園長になにか目を引くものをつくれと言われてね。それならば、と実際よりずっと大きくした」。そう笑いながら話す石田覚蔵(かくぞう)さんこそ、巨象の生みの親です。

岩山もジャングルバスも

肩書は「アート担当」。レストランの上にそびえたつ岩山や、植木の花から顔を出すかわいらしいウサギなど、園内の様々な造形物を手掛けてきました。
ライオンやサイなどの動物がデザインされた「ジャングルバス」も石田さんがつくったもので、現在アフリカンサファリで11台、兄弟グループ「富士サファリパーク」(静岡県裾野市)で9台が稼働しています。外注すると制作費が3倍もかかるため、30年近くにわたって石田さんが制作してきました。

美術の素養

石田さんは1950年、大分県安心院町(現宇佐市)で生まれました。子供のころから手先が器用で、鉛筆の先にジャックナイフでこけしを掘って遊んでいたそうです。高校生になると独学で油絵を描くようになり、美術大学に進学することも考えましたが、悩んだ末に地元の自動車整備工場に就職しました。
アフリカンサファリに入社したのは、整備工場と製鉄所で7年間働いたのち、石田さんが25歳のときでした。バスの運行担当として採用されましたが、オフシーズンにトーテムポールをつくったことで、当時の園長に美術の素養を見出されます。以降は運行を主な業務にしながら、造形物の制作にも携わるようになりました。

ゾウの誕生

入社から5年が経った1981年、入り口にあった看板が台風でなぎ倒されたため、代わりとなるモニュメントをつくるよう園長から命じられます。石田さんはキリンやライオンなど30枚以上のイラストを描き起こし、園長に提出。その中から直立するゾウが選ばれました。
園長はアフリカゾウと同じ大きさを想定していましたが、石田さんはその2倍にすることを提案します。「当たり前のことをしていたのでは注目されない」。既に図面を描いていた石田さんの熱意に押される形で、2倍の大きさにすることが決まりました。
作業はその年の秋、ほかの職員の協力のもと始まりました。まず足場をつくり、そこに石田さんが描いた設計図を基に鉄骨を組みます。その後コンクリートで成形しながら、外観を徐々にゾウに近づけていきました。
降雪時に濡れた工具を通して感電するトラブルに見舞われながらも、ゾウは予定通り翌年の春に完成します。奇しくも完成したその日に長男が生まれ、石田さんにとって忘れがたい日になったそうです。

現在

巨象の完成後、ジャングルバスや岩山など大掛かりな造形物も担当するようになった石田さん。5年ほど前にバスの運行業務を離れ「アート担当」に就任しました。今やアフリカンサファリにとって欠かせない存在ですが、来年70歳になるのを機に退職するつもりです。
それに伴いアート担当は3年ほど前から後任となる職員と2人態勢になり、後任にはすでに一通りのことを伝えました。ただ、「今は手で図面を描く時代ではないし、かえって技術の幅をせばめかねない」という配慮から、これまで描いた図面を渡すつもりはないそうです。

天職

筆者が「アート担当としてまだやりたいことはありますか」と尋ねると、「今は園内の木の枝に赤や青の鳥をつけたいと考えている。上を向いたときに鳥がいたら楽しいでしょう。そういったものを増やしたい」と子供のような笑顔で話しました。
石田さんは「仕事は趣味の延長のような感覚。好きなことをしてお客さんに楽しんでもらって、天職だと思う」と言います。衰えることのない創作意欲の源泉は、好きなことをする喜びにあるのかもしれません。
アフリカンサファリに行く際は動物だけでなく、ゾウのモニュメントや園内の造形物にもぜひ目を向けてみてください。石田さんの性格を反映したような、ユニークでかわいらしい作風に触れ、より楽しい時間を過ごせるはずです。

内容は2024年04月18日時点の情報のため、最新の情報とは異なる場合がありますので、あらかじめご了承ください。

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ジモッシュ編集部

地元が嫌いとか好きとかじゃなく地元にしか興味がありません! 噂を聞きつければ現地に足を運び、文字通り「地元をダッシュ」して情報発信中。 思い立ったら即行動!普段から目を皿にして特ダネをさがしています。

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